傍聴記その6-①

 

何もかもTRCにお任せ

 

三田市立図書館の指定管理者候補がTRC(図書館流通センター)という会社に決定したことは、「傍聴記その5-③」でお知らせしました。 10月10日に行われた現地説明会には、それなりに実績のあるTRC、大新東、CCCをはじめ数社が参加したとのことですが、最終的にプレゼンテーションに臨んだのはTRCと、ほとんど実績のない三興という会社だけでした。大新東とCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)は途中で降りたそうです。特にCCCは佐賀県武雄市立図書で指定管理者になり、話題を集めているTSUTAYAを中核とする会社です。この社が応募しなかったのは意外でした。そして結局、指定管理者の第1候補になったのがTRCでした。
 11月26日、この会社が提出した事業計画書・提案書について、市議会まちづくり常任委員会で審議が行われました。委員会側があらかじめ提出した質問項目について、TRCのスタッフから説明を受けるという形で行われました。この日は、疑問点だけの説明にとどまり、本格的な質疑は12月議会で行われるとのことです

三田図書館はTRCから本を買っている

TRCは東京に本社のある図書館向け書籍販売の大手、図書館流通の中心的な存在です。新刊書の発売から1週間程度で、カバーやラベルなどを装備しスピーディーに納入する実力を持っています。書籍の身分証明書である「MARC(マーク)」の販売でも実績があり、1996年からは図書館の委託業務も開始、2012年4月現在、全国で公共図書館329、学校図書館11、専門図書館10(計350)の運営を受託しています。図書館の指定管理企業としての実績は群を抜いています。TRCはまた、三田市立図書館と市立学校の図書館へ、新規購入本のほとんどを納入している会社でもあります。市立図書館がスタートした1990年に、この会社が本の納入権を獲得し、以来ずっと図書館はこの会社から本を購入しています。前身の公民館図書室に本を収めていた三田市内の書店は、すべて締め出されてしまいました。図書は市民の税金で購入されるのに、そのお金が地元に落ちず東京の大手企業の懐に入っているのです。「地産地消」が叫ばれ、地元産業・地元企業の育成保護が大きな課題になっている現在も、この状態は全く変わっていません。(この項は「市議への質問要請書」と重複しますがご了承ください。)

TRCが本を選定しTRCに発注する

 TRCが三田市立図書館の指定管理者になる可能は極めて高くなっています。このTRCが指定管理者になるとどういうことになるでしょうか。

 前述したように図書館はこの会社から本を買っています。直営の今は、複数の司書が合議し図書館長の決裁で選定された本をTRCに発注する形になっています(これも実は単純ではないのですが、後で稿を改めて述べます)。ところが、TRCが指定管理者になれば、今度は「選書=本選び」そのものをTRC社員が行うことになります。三田市は専門職員を置いて購入リストをチェックし、「最終判断は市が責任を持つ」と言っています。しかし現実には、毎週200冊以上にもなる新規購入本のほとんどが、TRC側の選定通りになることは火を見るより明らかです。市職員は他にも仕事を持ち、本の選定に割ける時間は限られるはずですし、日常的に新刊書などについて勉強する時間を十分に持てるとは思われません。まして、図書館現場で利用者と接触する機会もなく、利用者の意向を知ることもできません。TRCが持ってくるリストに注文を付けたり、変更させたりするだけの知識・見識・実力を維持できるとは到底考えられないからです。TRCも自分たちで選びやすいように、新たな方式を提案しています(このことについては後日、稿を改めたいと思います)。

TRC主導で決定された本は、同じTRCに発注されます。つまり、自分たちが本を選びその本を自分たちの会社から買うのです。これだけでも、商取引としてみれば競争原理の働かない異常な形です。そして、同じ会社がマークを作り、ラベルやカバーなどの装備もして納入します。図書館での貸出も管理もすべてTRC社員が担当します。レファレンスという利用者の相談に応じたり調べごとの援助をしたりするのも同じ社員です。さらに、本が溜まる一方では置き場所がなくなりますから、定期的に「除籍=本の廃棄、または無償あるいは有償の譲渡」をしなければなりません。どの本を捨てどの本を残すかを決めるのもTRC社員です。ここに市のチェックが入る余地はありません。絶版で二度と手に入らない貴重な本が、誰も知らないうちに1企業の社員の判断で捨てられてしまうかもしれないのです。もっとも、三田市は「除籍についても市が最終判断する」と議会答弁では述べましたが、改正条例にはそれと正反対のことが書かれています。それに例え市職員が関与するとしても、選書の場合と同じように、しっかり対応できるとは到底考えられません(除籍についても項を改めて述べます)。

 市民の個人情報もTRCが管理

加えて、気持が悪いのは「個人情報」の問題です。
 登録している市民の図書カード情報は、すべてTRCに引き継がれます。本来なら一度すべてをリセットして、希望者が新たに登録するという手続きが必要だと思いますが、そういうことは行われません。図書カードを使って本を借り出すたびに、図書館のコンピューターには「誰がどんな本を借りたか」が記録されます。図書館の情報には、読書傾向など思想信条にかかわるものが含まれ、ほとんどすべて個人情報なのです。この借り出し記録は、返却された際のコンピューター操作で「完全に消去される」と説明されています。しかし、こうした情報の流出事件・売買事件・ミスによる漏洩などは、NTTなど幾つもの企業で頻繁に起きています。コンピューターの情報を消去せずどこかへ蓄積することなど、システム的にはいくらでも可能です。公務員には守秘義務があり違反すれば罰せられますが、民間企業の社員に法律上の守秘義務はありません。情報漏洩だけで即処罰されるわけでもありません。また、企業が自らのミスや不祥事を隠そうとする傾向が強いのは、何度も見てきたことです。闇に葬られる恐れさえあります。そういう状態で個人情報が扱われることになるのです。

つまりTRCが指定管理者になると、1民間企業が、三田市民の「知の拠点」の入り口から出口までを完全に支配してしまうのです。市当局は「きちんとした監督システムを作るし、有識者によるモニタリングをするから大丈夫」といいます。しかし市役所のどこかの席に座っていて、図書館の日常業務を「隅から隅まで」監督することなど、できるはずがありません。少し想像力を働かせれば中学生にも分かることです。

例えば、大阪府の和泉市立図書館は、本館・分館とも全面的にTRCの指定管理ですが、和泉市は市の専任職員3人(うち司書2人)を図書館に常駐させています。そして、「収集資料の決定」「除籍資料の決定」「図書館管理理念の策定、サービス網の構築など管理の根幹にかかわる事項の決定」「他の公立図書館、学校、施設との連携・協力など公的立場での調整が必要な業務」については、「市が担当する」と仕様書に明記しています。TRCにすべてお任せではなく、市の専門職員が日常的にこれらの業務を行っているのです。

指定管理企業を本気で監理・監督をしようとするなら、最低これくらいの体制をとらなければならないのです。三田市の対応は言葉だけの絵空事です。

11月26日のまちづくり委員会では、これらの点についても、TRCと市側から説明がありました。しかし、そのすべてが、「選書ツールがあるから大丈夫」「市に専任職を置いて監理するから心配ない」と、まったく具体性のない答えばかりでした。また、改革改革と言いながら、「1年目は様子を見て、三田市様と緊密に協議しながら次年度以降に……」と、ほとんどすべてが先の話です。市のどの部署に何人の専門職員を置いて監督するのか、教育委員会との関係はどうするのか、三田市側で決められる体制は、とっくの昔に構想が固まっていなければならないはずです。しかし、未だに具体的な答弁は聞けません。

この日の委員会は「まず説明を受ける場」ということで、質疑は12月になるようです。市議の皆さん、内容のない説明・答弁で良しとするのではなく、しっかり追及してください。

「除籍」に市が責任をもてるか。

 図書館の蔵書の「除籍」について、さる9月18日のまちづくり常任委員会の答弁で突然、「同一タイトル2冊以内の備品本については市が最終判断する」と、印藤・図書館副館長が述べました。この日可決された図書館条例では、「選書」を除くすべての業務を指定管理者に任せるという規定になっています。「除籍」は「指定管理者に任せる業務」になっているのです。条例が成立したその日に、その条例と正反対の答弁が出てくるとは一体どういうことでしょう。この答弁について当時、議会側からの追及はありませんでした。

 そして、10月になって公表された市の「指定管理者業務要求水準書」には、「別に定める基準等に基づき除籍すべき資料の候補を選定し、市に協議を行う」「市が除籍を決定もしくは承認した資料は、市との協議により廃棄その他の処分を行う」と書かれています。前述の副館長答弁と同じ内容です。条例に反する内容が業者に示されたわけです。

勿論、私たちも選書(購入)・除籍(処分)の権限を私企業に委ねるなど以ての外と考えます。市当局は条例を出してから「除籍が抜けていること」に気づいたのでしょうか。これは市の計画がいかに杜撰なものかを示す一つの証拠だと思います。図書館運営に精通した職員は関わっていないのではないかとの疑いさえ湧いてきます。
 
そもそも三田市図書館条例第4条の「業務」には、「除籍」という文言がないのです。11月18日にまちづくり常任委員会で配布された「市立図書館条例の一部を改正する条例の概要」にも追加規定はありません。つまり「除籍」については依然として明文の規定はないままです。三田市は結局どうするのでしょう

毎年除籍される本は、購入時の
価格でみれば毎年購入する本とほぼ同額とのことです。となると2000万円を超す市の知的財産の処分が、こんなにいい加減に扱われているのです

     

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