図書館運営評価委員会を傍聴しました


「三田市立図書館運営評価委員会」の第4回会合が2月19日、図書館本館研修室で開かれました。6名の評価委員と田市から監督部署であるまちづくり部の川田次長、生涯学習課の印藤参事、他に担当者2名、TRC側からは前川館長が出席しました。委員の質問に説明役として発言したのは印藤参事と前川館長でした。市民に公開されている会議で傍聴は自由ですが、傍聴者は筆者を含めてわずか2名、取材の新聞記者も2名だけでした。

 この委員会の役割は、文字通り昨年4月からTRCに委託された市立図書館の運営について評価をする、ということですが、評価の仕方が今一つ明らかでありません。「直営時の図書館との比較」という視点がほとんど無いように感じます。この点については改めて報告する機会があると思います

さて、この日の会合の主な議題は次の通りでした。

*「満足度調査」の結果概要(高齢者対象、来館者対象、スタッフ対象)

*質疑応答(選書とリクエスト、職員研修、広報、学校・学習支援、その他)

「満足度調査」の結果報告が主眼だったようですが、評価委員への資料の配布が委員会当日、現場でということで、委員が事前に資料に目を通して考えを纏める時間は皆無だったようです。まず、こんなことで「評価」が可能なのかという強い疑問を持ちました。一部委員から批判が出ましたが、三田市の担当者の釈明は誠意のあるものではありませんでした。資料取り纏めの責任はTRCにあるようです。何故間に合わなかったのか、そのような状態で会議を開くことに意味があるのか、とても疑問でした。委員の皆さんは、「市民の代表として評価する」立場なのですから、この日の会議は流会にして、資料を読み込んだ上で改めて会議を開かせる、という選択もあったのではないかと感じました.

 会議を傍聴して、幾つもの問題点がある事が分かりましたが、今回は「選書とリクエスト」を取り上げて報告したいと思います。


選書購入TRCに一任」されている

 「選書」については、TRCへの委託を審議した2013年、2014年の議会審議で何回も取り上げられましたし、私たち「市民の会」が最も危惧していたことの一つでした。三田市は、「選書についてはTRC任せにせず、三田市の責任で本を選定し最終的に市が責任を持つ。そのためにきちんとした選書システムを作る」と約束しました。議会審議の過程で何度も確約された事でした。ところが、この日、選書は全く違った形で行われていることが明らかになりました。

 前川館長が複数の委員の質問に答えた内容を纏めの形で記します(メモによる記述ですので、一語一句が前川館長の表現通りでない場合がある事をお断りしておきます)。

 前段として、印藤参事から「リクエスト本の採用率が低くなっていて、利用者から不満の声が寄せられているのは事実だが、リクエストは新刊書に集中し勝ちで、そういうものを優先購入すべきかどうかについては、議論があるところだ」という趣旨の概括的説明がありました。それを受けた形で、前川館長から次のような説明がありました。

<リクエスト採用率が低くなっているのは確かだ。どの程度低くなっているか数値は出していない。以前は(直営時は、という意味だと思われる)リクエストの本はすべて買っていた。まず、リクエスト本を買い、残りの予算で必要な資料を買っていた。公立図書館としては広く資料を集めなければならないが、これまでは新刊の読み物、スピリチャル物、漫画、コミックなどがすごく多かった。本の購入に偏りがあったので改めた。>

次に具体的な選書のシステムとして、

<「定期購入」と「リクエスト」に分けている。定期購入分は担当者が新刊案内などで一次選定し、毎週火曜日に館長と協議して決める。担当を超えた全館協議の場はないが、定期購入については全員がリストを見られるので、他の部門担当者の意見も適宜反映される。それらを合わせて最終的に検討し館長が決裁して購入する。リクエスト本については、担当者が一次裁定して館長と相談、それを月に2回の「選書会議」にかける。この会議には本館・分館・分室の担当者も出席して様々な観点から検討する。最終的に館長が決裁して発注する。>

<どのような本を収集すべきかについての基準が一応ある。利用者に詳しい基準は示していないが、リクエストは「購入の参考にする。お断りする場合もある」と伝えている。採用しなかった場合は、申請者に電話で不採用の理由も伝えている。「前と違う」という抗議が多かったが、最近は理解をしてもらえるようになったと評価している。>

市は購入後チェック 但し却下はゼロ

 以上のような前川館長の説明の後、質疑に入り、最後に印藤参事が以下の補足説明をしました。

<選書から購入までは一括してTRCに一任している。しかし、最終決定は市が行っている。購入した本のリストを審査して不都合だと思われるものは「はじく」ことにしている。はじいた本については、図書館の資料購入予算を適用させず、TRCが「自腹で買う」形をとって貰う。ただ、これまでに「はじいたケースはない」(つまり、市の審査で「購入不可」とされたものはないということ)。複本(同じ本を複数購入すること)は3冊までを基準にしていたが、TRCの要望で4冊まで認めることにした。また、地域資料は市が購入図書を指示している。初年度は他の資料充実のためもあり、郷土史関係の自費出版本については、図書館の予算ではなく、三田市の予算で購入し、図書館に寄贈する形をとっている。>

 

 昨年9月の評価委員会で「選書会議」を見学させてほしい、いう意見が委員から出されました。その時のやり取りでは、TRCではなく三田市の担当部署で選書会議が行われている、というのが傍聴していての印象でした。見学の要望に対し、前川館長ではなく印藤参事が、「そのように取り計らいます」という趣旨の答弁をしたからです。しかし、この日の質疑で見学の約束がまだ果たされていないこと、そして選書はTRCが行っていることが初めて明らかになったのです。委員から改めて選書会議見学の要請がありましたが、前川館長は黙殺した形で答えませんでした。

 

 「選書の基準」についても明確には示されませんでした。委員からは選書の仕組みを図示した書面を出して欲しいとの要請がありましたが、これについても回答はありませんでした(文書による数値データなどの「提出要請」が、複数の委員から他の案件についても幾つか出されました。しかし、三田市もTRCも確答しませんでした。意図的に答えない=黙殺という感じを受けました。何故なのでしょう。評価委員の皆さん、もっと「強く要求」して提出させる必要があるのではないでしょうか)。

 

すべてが市民との約束違反です

 さて、以上が会議で明らかになった「選書の実態」です。「以前はすべてのリクエストを受け入れていた」と前川館長は述べました。これは「直営時の図書館は公立図書館としての役割を果たしていなかった。利用者の言いなりで低レベルだった」と非難しているに等しい発言です。しかし、私たちが理解している事とは全く違う一方的な断定です。私たち市民は「選書について直営時代と全く変わることはありません」と何度も聞かされてきました。これは当然、リクエストも含めてのことです。それを委託企業が、市民に何の説明もなしに一方的に変えてしまったことになります。直営時のリクエスト対処方針はTRCによって完全に否定され、利用者の希望は単に「参考にするだけ」になりました。これでは、市は市民に対して約束を果たしていないというほかありません。何も知らされない利用者が窓口で抗議するのは当然です。

 

 選書の流れをもう一度、纏めておきます。

「定期購入本」は、担当者が一次選考→毎週火曜に館長と協議→他部門担当スタッフも意見表明(制度的なものではなく発言する者がいれば考慮される程度)→館長決済→発注。「リクエスト本」は、担当者の一次審査(採否を決める)→館長と協議→月2回の選書会議に諮る→館長決済→購入、または申請者への不採用通知。そして、購入された本について、三田市の担当部署が審査→不適当なものは資料購入予算を使うことを認めずTRCにその分を負担させる。しかし今まで、「不適当」と認定された本は1冊もない。以上がTRCと三田市の説明です。

さて、これが「市が責任を持って選書にあたる・心配はいらない」やり方でしょうか。とてもそうは思えません。一次選考も含めて、市の責任者が、それも書籍・出版物に通じたベテランが選書に当たるのでなければ、「責任を持った」などとは決して言えません。仮にTRCが選定した本の多くを、市が不適当と認定すれば、そのような会社(本もまともに選べない会社)を指定管理者に選んだ「市の見識」が問われることになります。「事後」では審査とは名ばかりの大甘の審査になることは、誰にでも想像できます。「審査の名に値しない」と言わなければなりません。このようなやり方が、三田市とTRCの「馴れ合い」「選書の丸投げ」でなくて何なのでしょうか。

 

心配な職員の質 館長は「大目に見て…」

もう一つ驚いたことがあります。それは「館員(スタッフ)の質」が実はあまり高くないのではないかという指摘が委員からあったことです。「館員の質」についても、市側は議会答弁で、「TRCは全国で多くの図書館を運営し、優れた司書集団を持っている。図書館員のレベルが直営時より落ちることは絶対ない、むしろ向上する」と自信満々に述べていました。

ところがこの日の会議で、直前に開催された「ブックトーク講座」について、委員から「未熟で言葉遣いにも問題のあるスタッフが司会に当たっていた。スタッフ研修はどうなっているのか」と質問がありました。これに対して前川館長は「担当者が未熟であることは重々承知していた。しかし、今まで図書館で講座をやったことがなく、経験者がいなかった。未熟ではあるが、この過程を経ないと次のステップに行けない。こういう講座も研修の一環と捉えている。まだ1年目なので温かい目で見て欲しい。大目に見て欲しい」と述べました。また、参加したスタッフ6人のうち、4人は研修目的で参加していたとも述べました。

 

何ということでしょうか。「ブックトーク講座」という限られた部分についての説明ですが、まず大前提として、「図書館運営全般について直営時のレベルから全く下がらない、下げない」という市民への約束があります。しかし、この約束が実現出来ていないことが館長発言で明らかになりました。それに職員研修と一般市民対象の講座を一緒にされたのでは、市民受講者は大迷惑です。研修の練習台に使われているようなもので、そんな講座が市民の勉強になるとはとても思えません。館員の研修と市民講座は分けて貰わないと困ります。

質問した委員は「一事が万事でないとよいのですが……」と述べていました。「カウンター業務の不手際」「簡単な質問に答えて貰えず調査相談室へ行ってくれと言われた」「常識的な知識がない」「連絡を受けて予約本を取りに行ったら、届いていなかった。あきらめて帰ったら、実は届いていたとの電話があった。二度足を踏まされた」――などなど、私たちもクレームを幾つも聞いています。職員の質は直営時よりかなり落ちているのではないかという懸念を強く持ちます。そう言えば、前回の評価委員会の時に、何人かの委員が「カウンターでの対応にバラつきがある。職員の能力にかなり差がある」と指摘していたことを思い出しました。

 

選ぶのも売るのも同じ本屋さん

選書をTRCに一任することは、それ自体が約束違反ですから、やってはいけないことです。しかし、仮に何か事情があってTRCに任せざるを得ないとしても、どういう人たちがその仕事を担当するかという点は、厳しくチェックしなければなりません。「1年目だから大目に見てください」という館長の発言を聞くと、選書に当たっている館員の能力・レベルも心配になります。選書能力は講座の司会能力などとは全く異質です。膨大な数の出版物の中からごく少数の本を選ぶのですから、高度の知識・経験・判断力が求められます。日々継続して地道に研鑚を続けることでしか身に着かない能力だと思います。チョコチョコっと研修を受けて出来ることではありません。図書館職員として「基本の基」の能力にさえ疑問符が付く集団に、選書が丸投げされている現実を心底恐ろしく感じます。

まして、選定した本を発注する先は同じTRCです。買う本を決めるのもTRC、その本を注文する先もTRCなのです。TRCは「図書館流通センター」の略語で、実は「大きな本屋さん」なのです。「売りたい本」を沢山抱えているはずです。出版不況という現実の中、「売れない在庫」も多いことでしょう。「身内取引」で、どんなことが行われているのでしょうか。想像すると怖くなります。

 

評価委員の皆さんには、このことも深く考えていただきたいと思います。

指定管理者制度導入に諸手を挙げて賛成した市議会議員も多くの方が、「今後しっかり検証していく」と述べておられました。市議会議員の皆さん、実態をしっかり検証して市政へのチェック役を果たしてください。

(2015年3月5日)

三田市の図書館を考える市民の会ホームページ

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